これからの出版契約―「第三者の利用許諾を含む」契約書のすすめ
私たちJPCAは、著者(著作権者)と出版者の出版契約書について、「第三者の利用許諾を含む」契約をすすめています。
本契約書は、ユニ著作権センターで2004年4月に発表され、JPCAが改訂してきた契約書です。
当会では、ユニ著作権センターのご厚意で、当会員のユニ版契約書の利用が認められています。
「第三者の利用許諾を含む」契約書の利用による出版契約を、多くの出版社と著作者に訴えます。
従来の出版契約書の限界
従来、使用されてきた出版契約書は、著作権法に定められた出版権に基づくものでした。
著作権法でいう出版権の設定は、
著者(著作権者)は、その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者(主に出版社のこと)に対し、出版権を設定することができる。
とされています。
そして、著作権法のいう出版権の内容は、3つ規定され、出版社に関わるのは以下の2つです。
1.出版権者(出版社のこと)は、文書又は図画として複製する権利を占有する。
3.出版権者は、他人に対し、その出版権の目的である著作物の複製を許諾することができない。
とされています。
つ まり、著者(著作権者)が設定した出版権により、出版権者(出版社)は、同業他社から防衛されるけれども、そもそも、出版権は著作者の権利であり、許諾の 権利は出版社にはないということです。このことは、非常に誤解されています。しかも差し止めなどで第三者に対抗するためには、出版権の設定を文化庁に登録 しなければなりませんが、実際にはこれはほとんど行われていません。
つまり厳密にいえば、海賊版さえ防止出来ない状態でありながら、業界の慣行によって成り立っているのです。
また、出版界の慣行では、文庫化に際して、原出版社に、文庫発売出版社から期間を限って使用料を支払う、あるいは、著者の好意で、印税の一部が支払われる、ということが行われていました。
また、著作権法でいう、出版権は、文書又は図画として出版するということであり、現在でも、デジタル利用による様々な出版行為には、対処していません。文化庁も設定出版権はデジタル方式のものは含まれないという見解です。
そうしたなかで、著作物を出版するという行為は、その後様々な利用がデジタル技術、IT技術の発展により可能となりました。
「第三者の利用許諾を含む」の主旨
ユニ版契約書では、著作物の複製・譲渡の許諾に加え、オンデマンド、オンラインで頒布する許諾についても規定しています。
第三者による二次使用・二次的使用(翻訳・ダイジェスト・録音・録画・電子出版・演劇・映画・放送・オンデマンド・オンライン・文庫化等)での使用料の著作権者と出版社との配分について、明確化します。
出版という行為で生じる、様々な著作物の利用形態についてあらかじめ明確化しておくことが、著作権の無断使用を防ぐことにつながります。
また、想定していなかったがために、あとで著者(著作権者)と出版社で使用料をめぐる軋轢が生じることもありません。
出版という行為を守るために
総じて、出版社は、著作権の様々な利用について、鈍感であったことは否めません。そのことは、ひいては、著作権者の利益を守りえなかったということです。
平成4年の著作権法の改正により、デジタル方式の場合、録音録画の「私的使用のためのコピー」については、「補償金の支払い」をしなければならないとされました。
そのころ、出版界では、日本複写権センターを準備し、機器に課金するという方法ではなく、設置された複写機に課金するという方法になりました。アナログ複 写利用について、極めて限定的な課金制度がはじまったということです。それに関われる著作権者と出版社も限定されていました。
それから、10年を経過しても、その後のデジタル方式の複写の飛躍的な普及については、放置された状態がつづいています。
現在、2万円前後の普及版のスキャナーには、OCRソフトが必ず添付されています。
文書のデジタルでの読み取りが利用形態として前提とされているのです。
また、オフィス、大学、各種機関には、デジタル複合機が、従来の複写機にとって代わりつつあります。複合機には、当然スキャン機能が備わり、パソコンとネットワークが作られています。そこでは、なおさら文書のデジタルによる多目的な利用、使用が行われています。
アナログ複写の場合は、その利用による影響は、組織的に行われていようと、一時的か、限定的なものです。
しかしながら、デジタルによる複写とその利用は、蓄積性、継続性にこそ価値が生まれます。そして、インターネットの普及は、交換による蓄積を容易にしました。だからこそ、著作物にとって、致命的問題となりかねません。
私たちは、このことを見過ごすわけにはいかないと思っています。
アナログ複写時代での出版界の対応の限界性に鑑み、これから、デジタル複写利用については、機器に課金していく制度を作っていく必要があると考えています。
今こそ、著作権者と出版社が、あらかじめ著作権利用について明確化し、内ではなく、外に、積極的に目を向けていこうではありませんか。
デジタル時代に著作権者と出版社が生き残っていくために、JPCAは、今後も訴えていくつもりです。
Google「和解案」の衝撃
Google の和解案が日本の出版界に衝撃を与えています。詳しくは、声明をご覧ください。
私たちが訴えてきたことが、現実になってきています。早急に、出版社の権利を確立しなければ、日本の出版物は、無権利の状態で、デジタル化時代を迎えることになります。
著者の権利だけでは、出版社の出版活動を守っていくことができなくなってきています。ぜひとも、出版社の権利を確立していきましょう。
2004年9月1日, 2009年4月1日加筆